ファインダーの中には何が見える

思いついたことをつらつらと書きます。

あしたTSUTAYAで

借りようと思いたった。
谷村有美のCDを。
「ボンネットに太陽」を聴きたいから。
この曲は「Hear」という彼女の3枚目のアルバムに所収されている曲で、作曲した谷村のメロディがすばらしく、発売してから20年以上経った今でもまったく色褪せていない名曲だ。ふと思い出し、聴きたくて探したけど見当たらなかった。


僕が谷村を知ったのは高校のとき、同じクラスの女の子にCDを貸してもらったのがはじまり。彼女は確か東京の有名女子大に進学したくらい実は頭の良い子だったんだけれど、普段着ている制服とかよれよれだし、髪の毛もぼさぼさ、靴はいつでもかかとを踏んでいて、まわりの目を気にしないっていうか、言葉は悪いけど、ねじが1本外れているタイプの女の子だった。そんな子だったからクラスではいつでもひとりでぽつん。だけれど彼女自身はそのことについてなんとも考えていない様子、いじめられていたとかそういうのではなかった。もしかすると、同じ教室にいるけど、彼女の頭の中はどこか違う星、違う次元、違う時代を生きている、そんな感じだった。


ある日、授業が始まるチャイムが鳴っても教師が現れない、生徒たちは徐々にざわついてくる。もしかしたら自習か、とか思って、隣の生徒と話したりし始める。その頃、僕の前の席に座っていた例のその子が珍しく振り返った。色白の肌に大きな目、黒々としたおかっぱのその子は僕を見て、「これ貸したげる」と言った。彼女の手には一枚のCD。それが谷村有美の「Hear」だった。


このときから、僕は通学の行き帰り、CDウォークマンで谷村を聴きながら自転車をこぐようになった。理由は、谷村の声と曲をとてもいい!と思ったから。そして、その谷村を教えてくれたのが、同じクラスの女の子だったから。当時、なかなか女の子と話すことなんてできなかった僕はCDを貸してもらっただけで、その時期、彼女のことを好きになった。純情高校生だったのだ。さらに、鹿児島の田舎だから、彼女がコンサートに来ることもなく、TVで彼女を見ることはほとんどなかったので、CDウォークマンから聞こえてくる彼女の透き通った声は、とても貴重で大切なもののように感じていた。今、考えるととても幸せな谷村との出会いだったのだと思う。


で、僕はなんとか東京の大学に滑り込んで、板橋でふらふら生活をしていた頃、JRの板橋駅の前で、(ねじが外れた感じの)彼女を見かけた。彼女は空を見ていて、田舎の教室にいたときのように、僕とは違う世界に生きているような目をしていた。
声をかければよかったのかもしれないけれど、生まれて初めてできた彼女とのデートに向かうところだった僕は彼女に声をかけず、駅に入って電車に乗った。



記憶をあらためて洗濯してみると……
今は記憶があやふやになってきていて、本当に(ねじが外れた感じの)彼女から借りたのは谷村のCDなのか?とあのときの記憶に少し自信がなくなってきている。というのも、当時の女子高生が谷村有美を聴いているってことが????だし、当時、彼女と僕とはほとんど会話らしい会話をしていない関係だったから(同じクラスだった1年間で彼女と話した会話の文字数はおそらく400字詰め原稿用紙が埋まらないと思う)、なんでそんな僕に彼女がCDを貸してくれるのだ!


タニムラベスト

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