ファインダーの中には何が見える

思いついたことをつらつらと書きます。

伊坂幸太郎「砂漠」

今では高層ビルに変貌したけど、僕が通っていた頃の大学にはまだ古い校舎がいくつか残っていた。地面にめり込むようにそこに存在した校舎の半地下に僕が仲間と4年間を過ごしたサークルのボックスがあったんだ。昼間でも日が射さず、ジメっとしたその部屋には何年前からそこにあるのか分からない本やノート、あるいは落書きが散らばっていて、暇さえあるとそこに顔を出していた僕らはその過去の残骸に自分たちのあたらしい記憶を上書きすることに一生懸命だった。
田舎から東京の大学に入学したばかりの僕は同じサークルの仲間たちだけがすべてで、彼らとこの薄暗い部屋で過ごした4年間が今でもとても大切な思い出として残っている。


「俺は恵まれないことには慣れてますけどね、大学に入って、友達に恵まれましたよ」


この小説のある意味、主人公である西嶋のことば。

何のためらいもなくこう言える僕も幸せな4年間を過ごせたのかなと、今、あらためて思うことができた。読後、こんな気持ちなったのは、辻仁成の「ニュートンの林檎」以来かな。


砂漠 (新潮文庫)

砂漠 (新潮文庫)